ある日、メリーとメリーの母親が、
チャイドクが運営している検査室へやってきました。
母親は自分がHIVに感染した後に生まれてきたメリーが、
HIVに感染しているのか心配で、調べてほしいと言いました。
検査室の待合室の長椅子に、足をぶらぶらさせながら、
小さなメリーは待っていました。
名前を呼ばれると、奥の検査室に入っていきました。
彼女はまだこれから受ける検査について、
それが何の検査であるかも知りませんでした。
検査は、血液を少量採取するだけの簡単なものでした。
指の先から血液をとり、検査シートの上につけます。
感染していれば2本の赤い線が浮かび上がってきます。
もし感染していなければ1本の赤い線だけが浮かび上がってきます。
結果が出るまでは15分間。
メリーはいつもと変わらない様子で、長椅子に座ったままでした。
うっすらと浮き上がってきた2本線が、やがてくっきりと見えてきました。
メリーは母親からHIVに感染していました。
HIVは、感染しても一般的には数年間、無症状の状態が続きます。
まだ小さかったメリーも他の子供達と何も変わりませんでした。
家の前の学校のグラウンドには、友達とかけっこするメリーの姿が、
遊びに行くと、手をとって村の中を案内してくれる姿がありました。
写真の中では、いつも笑顔を見せてくれていました。
感染から数年が経過すると、様々な症状がでてきました。
メリーが小学校に入学する頃には、体の中でウイルスが増殖し始め、
免疫状態も低下し、日和見(ひよりみ)感染症と呼ばれる
元気ならかからないような病気にかかるようになりました。
そして診療所にやってくる回数も増えてきました。
ただれた皮膚を消毒するときには、彼女の鳴き声が部屋中に響きました。
診療所の車が迎えに来ると、黙って家の中に隠れるようになりました。
体の調子も段々悪くなって、学校も休みがちになり、
家のベッドで横になって、声にならない声で受け答えをするようになっていきました。
WHO世界保健機構では、
HIV/AIDSの進行状況に応じて、いくつかの段階に分類しており、
その段階に沿って治療が開始されます。
ステージ1:無症候性
ステージ2:軽症
ステージ3:中等症
ステージ4:重症
メリーは、慢性的な呼吸器疾患や皮膚疾患が出ていたため、
ステージ2に分類されるような状態になっていました。
『メリーに薬が渡るまで』