メリーの家は、スラムの中にあります。
久しぶりに訪れたスラムでしたが、
たった1年ほどの間に、
小さいトタンの家々がそこかしこに増え、
案内なくしては、
目的地まで辿り着けないほどになっていました。
到着したメリーの家では、
まだ学校から帰っていないメリーの代わりに、
母親が迎えてくれました。
彼女もまたHIVに感染しています。
私の頭の中には、1年前にあった時の、
やせた手足に出来た湿疹、暗かった表情、
とぼとぼとよろけるように歩いている姿、
その全てが目に焼きついていました。
その後、体力も弱り、
終日寝ていることが多くなり、
食事を作ることもままならない状況に
なっていきました。
その頃のメリーは、
口の周囲、手や背中にも膿化疹が出来、
見るからに痛々しい状況でしたが、
幼い手つきで野菜を刻んだり、
台所の掃除をしたりして、
病身の母親をいたわっていたのを覚えています。
その母親が、
私の姿を見るなり、「こんにちは!」とにっこり
手を差し出してきました。
以前の彼女の姿が
脳裏に焼きついていた私にとって、
彼女のふくよかな体つき、
やわらかい表情に、目を疑うくらいびっくりし、
彼女の両手をしっかりと握り締めました。
暗い家の中に招き入れられると、
まっくろの七輪、何種類かのアルミの鍋が、
以前と同じ様に並んでいました。
トタンの天井の釘穴から差し込む少しの光に、
彼女のこぼれるような笑みを見ることができました。
メリーのために、
私達がどうやっても出来ないこと、
それが母親のあたたかい笑顔の中に
あるような気がしました。
『かあちゃんの存在』